この記事は花屋で働く男性が節操なしに好きな人の妄想です。その1
これは、妄想です。
間違っても現実と混同しないよう注意して読みましょう。
「ツチダフラワーショップ」
商店街の出口付近の角に構える花屋の名前だ。
そこは50代の夫婦が二人だけで営んでいて、商店街でも信頼と実績を誇る立ち位置にいる。
俺はそこの一人息子として生まれた。
「春(しゅん)!そこに置いてある鉢、全部倉庫に移動させるの手伝ってくれない?」
「・・・・無理。今から出かけるから。」
ふいと顔を向けて店を後にする。俺はこの花屋が嫌いだ。
昔から両親は、俺をよくかわいがってくれた。ただ、それと同じくらい植物にこれでもかというほどの愛情を注いでいた。はじめはそれが気にくわなかった。
正直、いくら頑張っても花屋で億万長者にはなれない。なのに好きというだけで自分以上に植物に手をかける。
両親の経営スキルと素材への妥協のなさは金も時間も多く浪費するもので、朝3時から仕事にでて夜遅くまで働く労働体型はどう考えても割りに合わなかった。
そんな働き方で子供を産んだものだから、花に嫉妬するのは造作もないことだった。
朝起きてもセリで両親はおらず、昼間は冷めたお昼ごはんのチャーハンと書置きだけ。
そんな家族を奪う植物や店を、小さいころは何度つぶしてやろうと思っただろうか。
でも、ちいさな自分の良心が語りかけてきて、毎度けんかになる。
「そんなことをして母さんや父さんは喜ぶのか?」
「息子をほったらかしにしてまで守る店って何?」
「父さんと母さんから植物を奪ってまで得たい愛情なのか?」
尽きないこのモヤモヤと徐々に完成していったひねくれた性格を直してくれる友達は誰もいなかった。パソコン大好き陰キャマンとして確立し、教室隅を獲得した青春時代を過ごした。
そして月日が20年も経った。年は28。
花屋とは一切無縁のSEの仕事に就いた。
必要事項しかコミュニケーションを交わさず、タスクをコツコツと消化する社風が自分に合っていた。
そして話は劇的に変わるが第一次結婚シーズンの渦中にいた。28だから。
こんな性格のおかげで友達は少なく、最初に行った結婚式は職場の先輩のものだった。
「おい、しゅん。お前彼女まだいねえんだろ。式の時のテーブル。2人くらい嫁の友達でかわいい子呼んでやるよ。俺、頭いいだろ?ご祝儀はお前の結婚式で返してやる。」
そういった先輩は本当に隣にかわいい女子を座らせてきた。
肩からレースになっている紺のワンピースに、やわらかそうな髪はアップでまとめてあった。彼女が肩を揺らして笑うたびにおくれ毛がひらひらと揺れている。
正直ドストライクだった。めちゃくちゃかわいい。スプーンをもってソロソロと飲むスープでさえかわいく見えた。あ、笑った。なにあれかわい~・・・
ただ、一人というわけではなく、もう一人仲のよさそうに話す同僚の男がいた。
知り合いがいるなら俺に話かけることはないだろう、運は相変わらず回ってこないなと思いながら静かに食事をしながらケーキ入刀を眺めていた。
披露宴も一息つき、机の中心にあるフラワーアレンジメントをばらして持って帰っていいですよというアナウンスがされ、彼女は率先して花を分け始める。
ふと彼女とその同僚の会話が耳に入った。
「私、このカスミソウって花、すごく好きなんですよね。」
「へえ、秋本さんって花好きなんだ。前はすぐ枯らしちゃうから生花は苦手とかって言ってなかったっけ?」
「そそ、そうですけど!カスミソウだけはなんか、なんかちがうんですよ。目が離せないっていうか。」
「それって枯らしたやつそのままほっぽらかしてあっるだけなんじゃないの~w」
「ちがいますよ~~~~~~~!!!!!!も~~~~!!!」
顔を赤くして話す彼女と同僚との会話を聞きながら、なんでかはさっぱりわからないがやけにムカついていた。
はあ?枯らした花とドライフラワーの違いも分かりませんかァ?
そもそも生花は処理も維持もちょっと大変だけど
咲いている時にほのかにする花の香りも、目をひく鮮やかさも、部屋をぱっと明るくするような気分にもできるんですけど~~~~~~~~~~~~~~~~?!??!!??!!?!?
なんなんだあいつ~~~~~~!???!?!?!
この怒りはなぜか顔に出ていたらしく
「あのう・・・・・・」
と分けた花をもって声をかけてきた彼女は少し心配そうな顔をしてこちらをのぞき込んでいた。
「ひっあっはい!はい。なんでしょうかすみません」
返事がもたつく。ああもう!クソダサいじゃんおれ!
「あっお花を分けたのでよかったらどうぞ」
そういって彼女は先ほどの花を束にして差し出してきた。
「あっあああありがとうございます。すごくきれいですね。ああこれはカスミソウ、ピオニーもバラもこんなにいいんですか。」
「もちろん!お花、詳しいんですね。男性でこんなに知っている方、初めてお会いしました。」
「えっあっ、、いやいやそんなに知りませんよ、たまたまです。ありがとう。今日は相席がこんなですみませんでした。良い結婚式でしたね。」
「こちらこそ!さわがしくしてしまってすみませんでした!あの、これもしよかったら」
そろりと小さくたたんだナプキンを押し付けるようにして渡すと、足早にかけて友人グループの中へ溶けて行ってしまった。
なんだろう。と思ってたたまれた折り目を開くと「わたしのLINEです。Hana7986」と小さい文字で書いてあった。
…マジか。ままままままままままっままじか。
つづく
つづく